photo:中島圭一郎
model:緑川百々子(ももちゃん14歳)
モデル:ももちゃん14歳
撮影:中島圭一郎
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Track: 「ばかっ…ぜったいムリ…」by なっちゃん
Artist: さよならポニーテール
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「ばかっ…ぜったいムリ…」by なっちゃん
大正七年一月二三日
だんだん二月二日が近づいて来ます。
来方が遅いような気も早いような気もします。
もう正味二週間だと思うと驚かずにはいられません。文ちゃんはどんな気がします。
僕は当日の事をいろいろ想像しています。
そうして、少し不安な気もしています。
何だかまだ身支度も出来ないうちに真剣勝負の場所へ
ひっぱり出されたような気がしないでもありません。
しかしそれよりも嬉しい気がします。
文ちゃんはご婚礼の荷物と一しょに忘れずにもって来なければならないものがあります。
それは僕の手紙です。
僕も文ちゃんの手紙を一束にして持っています。
…
大正六年 四月十六日
来年の今頃にはもう、うちが持てるでしょう。
尤も月給が六十円しかないんだから、ずいぶん貧乏ですよ。
それでやって行くのは苦しいが、がまんして下さい。
苦しい時は二人で一緒に苦しみましょう。
その代わり 楽しい時は、二人で一緒に楽しみましょう。
そうすれば又、どうにかなる時が来ます。
下等な成金になるより上等な貧乏人になった方がいいでしょう。
そう思っていて下さい。
僕には僕の仕事があります。それも楽な仕事ではありません。
その仕事の為には、ずいぶんつらい目や苦しい目にあう事だろうと思っています。
しかしどんな目にあっても、文ちゃんさえ僕と一緒に居てくれれば
僕は決して負けないと思っています。
大正五年八月廿五日朝 一の宮町海岸一宮館にて
文ちゃん。
僕は、まだこの海岸で、本を読んだり原稿を書いたりして 暮らしてゐます。
何時頃 うちへかへるか それはまだ はっきりわかりません。
が、うちへ帰ってからは 文ちゃんに かう云う手紙を書く機会が なくなると思ひますから
奮発して 一つ長いのを書きます。
ひるまは 仕事をしたり泳いだりしてゐるので、忘れてゐますが
夕方や夜は 東京がこひしくなります。
さうして 早く又 あのあかりの多い にぎやかな通りを歩きたいと思ひます。
しかし、東京がこひしくなると云ふのは、 東京の町がこひしくなるばかりではありません。
…